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水底のうたかた

たまさかのお喋り

短い漂流の後、ふたたび戻り年の瀬となって、それから。

 雨滴の向こうには見慣れた光景がひろがっていました。見慣れている筈なのにどこか感興が去年と異なるのは、ふり解けない鎖の象徴だった景色が、やや懐かしさを帯びていることでしょうか。深緑色の葉も季が移れば枯茶色に色づくように。背後では絶えざるテレビの音や生活音が切れ切れに聞えてきます。ちょうどBS-TBSのアナウンサーが、オスマン帝国ロードス島の騎士たちが降伏するまでのくだりを解説している辺りまでは、何とか聞き取れたところです。そこから先は、この文章を打鍵する音がかき消してしまったので、何も。

 個人的なお話を続けることをもう少しだけお許しください。さて、あまり深くは立ち入らない落書きだらけの、或いはそれすらない隘路や、うらぶれた商店街、山口ないしは四国とを繋ぐ港の渇いた冷たい風などがぼくにとっての親しい街の顔でした。6月に東京へ行くこととなろうとは、渇望していた自分自身にさえ意外でした。その後から今日に至るまでは美術館、劇場、映画館、服屋等々と様々な場所を忙しなくめぐり、また色々な方にお会いしました。遊んでくださった方々にはほんとうに感謝しています。一方で、東京という街の慣れない過剰さに中てられ、浮ついていたとも言えるでしょう。単純に生活の在り方が変化した、と捉えればそれまでですが、今年書いた小説は、まどマギの中-長編二次創作とすさび書きのような短編の計二本だけで、どちらも東京へ越す以前に書いたものです。特にまどマギの二次創作にかんしては、今年はせめてこれを超えるものを書かなければ、という強迫観念に憑かれていたにも拘わらず、何も出来なかったことは悔しいです。現在、戯曲の初稿が終わり、これの推敲に取りかかり始めたところですが、恐らく難航するでしょう(いい加減、小学生の作文レヴェルの会話文からは卒業しろよと呆れるばかり)。それはそうと演劇に触れやすくなったことは都会に出たことの最大の利点のひとつですね。

 そういったなか今年読んだ本のうちで印象に残ったものを10冊挙げようと思います。実は諸事情により読書メーターのアカウントを削除しましたので些か自信のないリストになってしまいますがご容赦ください。

 以下、五十音順に並べております。

 

1.『鏡の影』――佐藤亜紀

2.『3月の五日間』――岡田利規

3.『刺青・秘密』――谷崎潤一郎

4.『詩・評論・小品』――サミュエル・ベケット

5.『女中たち・バルコン』――ジャン・ジュネ

6.『ハムレット』――ウィリアム・シェイクスピア

7.『フェードル・アンドロマック』――ジャン・ラシーヌ

8.『兵士はどうやってグラモフォンを修理するか』――サーシャ・スタニチ

9.『メタシアター』――ライオネル・エイベル

10.『自傷行為の理解と援助――「故意に自分の健康を害する」若者たち』――松本俊彦

 

 半数が戯曲関係であるのが今年の特徴でしょうか。また、その戯曲の構想の為に精神病関連の著作がランクインしていることも。右に挙げた松本さんの著作は実践的な内容ですが、ほかにも自伝的な小説『血と言葉』、日記『卒業式までは死にません』、また現象学的分析をもちいた『分裂病の現象学』等々と、これはTwitterでの教示のおかげもあって色々な本を読むことが出来ました。ありがとうございます。個人的には来年の目標としては批評をもう少し読んでいきたいですね。かつて小説の技術的側面に傾倒した時期があったように、「いかに読み、いかに題材その他を扱い、いかに書くか」を、いま一度見詰め直すことができれば、と思っています。精確に鋭く的を射貫く為には、つよく引き絞ることが必要。一応、それが目標です。

映画では北野武ソナチネ』『HANA-BI』が、

演劇では、

『きれいごと、なきごと、ねごと』(Cui?)

『十九歳のジェイコブ』(新国立劇場

ゴドーを待ちながら』(東京乾電池

『スーパーソフトプレミアムWバニラリッチ』(チェルフィッチュ

辺りが今年、強烈に印象に残りました。

 

 改めてふり返ると、映画、演劇に対してはさほど精力的ではなかった気もします。では来年は頑張ろうと意気込みたいところですが、一方では部屋に引き籠もり延々と半睡状態を貪りたい気もします。客席で引き起こされる半睡はしばしば刺激がつよすぎるので。とはいえ、世界のカレンダーは機械的に捲られ、ぼくらはみずから無理にでも停止させるか或いは機械それ自体の摩耗を待つかしないかぎりは、工場の生産ラインに乗った商品さながらの不自由な生を強いられることになり、それに対抗する手段として日々を無為に流すのでないならば、こうした諸々をつうじて爆弾のつくり方を試行するほかにないような気がしています。などと言いつつ爆弾は不発どころか、まだつくられてもいない始末、と何だか半ば愚痴みたいになってしまいました。

 

 それでは良い年末をお過ごしください。

 そして来年もどうか、よろしくお願い致します。