読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

水底のうたかた

たまさかのお喋り

としのせ、しのとし

 

川端康成『雪国』に関するブログを書いて以降、どんどん記事を書くぞ、と意気込んだものの、結局何も書かず仕舞いで年の瀬となりました。まずは恒例の今年の読書ベスト10を。以下、順不同です。

 

 

  1. 荒川洋治詩集(思潮社)  荒川洋治

 

 これをはじめて読んだ時、自分はどうして荒川洋治じゃないんだ、と激しく後悔した。初期がとにかくかっこいい。それまでの喪失の経験に裏付けられた戦後詩から本格的に袂を分かって書きつけられた詩語はいま読んでもあたらしい。「口語の時代は寒い」等々のキャッチフレーズも心憎い。そして随筆は抱腹ものの面白さ。

 

 

  1. ア ナザ ミミクリー(書肆山田) 藤原安紀子

 

 いま、日本語のシンタックスの破壊を試みつつあたらしい詩語の創出を目指すモードにそれほど心惹かれないけれども、これを最初に読んだ時はともかく衝撃的だった。

「膨張しつづける語を束にしてこころなどというものを語れぬように 己の声で歌い光速でばくはしていくサンクチュアリで あそぼうよ」

と、こころを歌う、という詩のありかたを拒絶しつつ、破壊とありえない再生を施された言葉たちの奥底に流れるかすかな抒情の物語が、この一冊の書物を比類なく見事なものにしている。

 

  1. 意味がなければスイングはない(文春文庫) 村上春樹

 

 エッセイは小説ほど肩肘張っていないのか、小説では見られないようなユーモラスな比喩が満載で、選曲も面白い。ジャズやクラシックなどの中からマイナー・ポエトに類する一曲を敢えて選んだり、彼好みの洋楽、さらにはスガシカオ(!)

書籍化にあたって楽譜を取り寄せるほどの徹底ぶりながら語り口は平明で、読者との親密な言説空間をつくりつつ、ゆっくりと音楽と自分だけの物語を結ぶ、という素敵な聴き方を示唆してくれる。

 

 

  1. 音楽の聴き方(中公新書岡田暁生

 

 アニメ『響け! ユーフォニアム』をきっかけに様々な音楽関係の本を読みましたが、先の春樹とエッセイと並んで出色の一冊。音楽には聴き方=知覚の枠組みとそれを表現する為の適切な語彙がある、として理論や、時には作曲家の逸話、音楽史果ては文学からも引用して説得力豊かに、音楽を聴くたのしみ、その広大な世界に分け入る糸口を提示してくれる。

 

 

  1. こちらあみ子(ちくま文庫) 今村夏子

 

 ディス・イズ・小説。決まったメッセージ性やこれといって目立った前衛的な技巧はいっさいない。ただ、主人公「あみ子」と、彼女をとりまく人々のズレを孕んだ不穏な物語を差し出しているだけだ。が、余計な語彙もなく、一切の枝葉もない。小説はこれでいいのだ、と強く印象に残った一冊。

 

 

  1. 死者の奢り(新潮文庫大江健三郎

 

 人生初の大江健三郎。最初こそ不条理文学に倣ったような観念性がすこし鼻につくけれど、たしかな主題とそれをものにする技術、表題のつけ方はデビュー時からすぐれている。不思議にもあたらしい時代をたしかに感じさせて、前時代の三島や川端といった作家の文章とは明らかに趣が異なる。「飼育」に至っては、中短編として、適度な肉づけの締まった文章、戦後という時代が許すリアリティ、観念性を排してより表出した身体性、匂いといったものが彼の得意とする差別の主題と絡んで、ひとつの凄い達成を為している。

 

 

  1. 詩篇アマ―タイム(思潮社) 松本 圭二

 

 ページ中の上下にそれぞれ違う詩を書き記したり、時には大胆に散文的文章の上に、別な文章を配したり。あくまで自己の私性を契機としていることはむしろ自覚的で、この書物が過去に発表した詩のコラージュであることも詩中に織り込まれているが、出来上がっているこの書物はそれらを超越している。詩集、というより書物が一冊の詩。そのようにしてしか存在しえない言葉たちがここにあり、それを読みうる唯一無二の幸福がここに。

 

 

  1. 言語と身体性《岩波講座 コミュニケーションの認知科学 第1巻》(岩波書店

 

 いわゆる言葉とそれを指し示すモノとがどう繋がるのか。本書は人が言葉を覚える過程で称するこのような「記号設置問題」を主としてコミュニケーションにまつわる論文を複数収める。認知科学の先端かつ素人にもわかりやすい記述で、どれも面白く読んだ。個人的には各国における「青」という語の差異が、実際に特定の青色の紙を前にした時、どんな認知の差異を示すかを実験した話と、各国の言語の文法が及ぼすジェスチャーへの影響の話あたりが特に印象的だった。

 

 

  1. 谷川俊太郎詩集(思潮社谷川俊太郎

 

 ぶっちゃけ谷川雁とどっちするか、かなり迷った。でも、「何ひとつ書くことはない」から始まる「鳥羽」ひとつで俊太郎の方を選んだ。きのこ帝国「海と花束」の歌詞と並んで、書くこと、伝えたいこと、なんてない、という深い断念をこのようにさらりと素直に言葉にし得たことに、本当に参ってしまったのだ。また、若い頃はかなり激しい語調で、自分たちの世界に閉じこもって議論している現代詩人たちを批判しつつ、実際自らはもっとも有名な現代詩人としてその後、半世紀に渡り生き得た、という事実も相まって、クレバーかつ、ほんとうに凄いひとだと思う。

 

 

  1. 原幸子《現代の詩人12》(中央公論社大岡信 谷川俊太郎 編集

 

「神様」のような強い単語をさえ詩のなかに置き得る勇気と激情。石原吉郎と並んで「花」という一語を使わせて映えるのはこのひとではないだろうか。身を切るように、幼年時代の心を失った幸福を、「あなた」を、惜しげもなくシンプルに歌い上げる様は、自分の詩作のお手本にもした。本書の収録ではないけれど晩年の詩もとても好き。

 

 

 

以上です。

こうして見ると今年は詩集が大勢を占めています。実際、今年の創作は殆ど詩を専らにしてきたので、それと並行している感じですね。詩の年、と言えるかも。この活動は今後も続けてゆきたいです。一応、現代詩フォーラムのリンクも貼っておきます。

http://po-m.com/forum/myframe.php?hid=10899

 

そして、来年は小説を読み、書きたいです。で、再来年あたりの文芸誌に出す。

ところで今年は「響け! ユーフォニアム」のおかげで音楽の年でもありました。で、先にノミネートした音楽関連の書籍とは別に、私見の音楽小説TOP3を挙げてみます。

 

 

 

  1. カナデ、奏でます!(角川つばさ文庫) ごとう しのぶ     山田デイジー(イラスト)

 

 未完の児童文学。というか少女漫画小説。主人公、奏ちゃんの持前の明るさで、重い展開も湿っぽくならずにごりごりと解決してゆく様は痛快。それ以上に痛快なのは時おり描かれる音楽描写の微に入り細を穿ちつつもわかりやすいことだ。小説中の人物といっしょに音楽を知る心地よさが味わえる。著者が音大出身と聴いて納得した。あらすじの主である部員のいない吹奏楽部の立て直しの物語はまだまだこれから。是非、続刊に出て欲しい。

 

 

  1. 響け! ユーフォニアムシリーズ 立華高校マーチングバンドへようこそ 後編 (宝島社文庫) 武田綾乃

 

 京アニの手がけたアニメは好きだけれども原作はちょっと評価しきれないでいた。が、本シリーズについて言えば話は別だ。安心のシリーズ物、強豪校が舞台というのも相まって、徹底した練習描写が出て来る。その練習描写そのものの緊迫感、リアリティだけで読むに足るものとなっている。これほどまでに「練習」に紙面と情熱を割いた音楽小説は殆どない。それを土台に、たった一回の本番の緊張感を、この小説で追体験出来てしまう。こうした主軸の見事さのおかげで、枝葉の人間関係のアレコレの逸話も面白い。

 単にユーフォシリーズのひとつ、ではなく、音楽小説史に刻みうる一冊として評価。

 

 

  1. ブラバン (新潮文庫) 津原泰水

 

 上の二冊がまさに当事者たちの青春まっただ中の小説なら、これは大人が青春を回顧し、イマの鬱屈した現在と照らし合わせて、そのどうしようもなさを噛み締めるほろ苦い小説、と言ったほうが適切かもしれない。束の間、ブラスバンド部で共にした青春も、決してコンクールに向けて団結するようなものでもなければ、卒業後の行方も様々だ。けれどそうした群像劇のなかでの逸話ひとつひとつが重なって、苦いリアリティが生まれている。何故だか幾つかの場面が記憶にずっと残っていて、離れない。

 

 

以上でした。ところで今年聴いた音楽のアルバムベストも記載しておきます。順不同で、ひと言コメントを。

 

  1. ムソルグスキー展覧会の絵」;チャイコフスキー「ピアノ協奏曲第一番」 ウラジミール・ホロヴィッツ

 

         ・チャイコが超絶エモい。独特のガタつくような弾き方が癖になる。

 

 

  1. ベートーヴェン後期ピアノソナタ全集第三巻 マウリツィオ・ポリーニ

 

        ・31番がすごく好き。クールなイメージに反して音色は響きゆたかで鼻歌も混じる。

 

  1. John Coltrane Collection vol.1 ジョン・コルトレーンほか

 

 

      ・冒頭のソロでぶっ飛ばされた。

 

 

  1. LAST HEAVEN'S BOOTLEG thee michelle gun elephant

 

   ・ライブ盤のガラガラ声と少し早い演奏が最高。

      今年はブランキ―とかスーパーカーとか90年代~00年代の邦ロックをよく聴いた。

 

 

  1. サッポロOMOIEDE IN MY HEAD状態 Number Girl

 

   ・やっと良さが分かった。聴くたびに向井の口上、シャウト、このバンドのサウンドに嵌る。

 

 

以上です。

来年、どんな音楽を聴くかはまだ考えてないですが、いい出会いがあるといいな、と思っております。

では、慌ただしくなりましたが、皆さま、よい年の瀬を。